子供地球基金事務局は東京・恵比寿の閑静な住宅街にある一軒家。一階の部屋には世界90カ国から集まった子どもたちの絵が掛けられている。そして板張り床には、病気で入院している子どもたちが太陽をイメージして自由に色づけした木の椅子がある。子供地球基金では、子どもたちの絵を企業や事業団体に貸し出し、その収益金を戦争や災害で苦しんでいる子どもたちに寄付したり、心を癒すためのアートワークショップを行うNPOだ。その創設者である鳥居晴美さんは、プリスクールの園長、語学サービス会社の経営者、そして妻・母親の3つの顔を持つ。しかし、すべてが同じ顔。カッコつけず、肩肘張らずにありのままの自分で生きてきた。
意外にと言っては失礼かもしれないが、鳥居さんは大人しい子どもだったという。封建的な家庭に育ち、女性は働くより結婚して家庭を守ることが一番の幸せだと教えられてきた。大学卒業後、一度も働くことなく専業主婦になった鳥居さんが社会と深く関わる実業家になるきっかけ、それはひとり息子の星(せい)くんの出産体験にあった。
「星を生むとき、母子ともに生死をさまようほどの難産でした。こんなにつらい思いをして生まれてきました息子の命を愛おしく思わずにはいられませんでした。私自身、生きていることの素晴らしさも強く感じました。このとき、自分の中に秘められていたパワーが引き出されたように感じます」 愛情をたっぷり受けて大切に育てられた星くんが幼稚園に入園する年齢になったころ、鳥居さんは通 える距離にある幼稚園はすべてくまなく調べた。結局、理想とする幼稚園は見つからなかった。普通 の母親なら、不満はあっても一番いいと思える幼稚園を選ぶだろう。しかし鳥居さんは違った。「それなら幼稚園を自分でつくるしかない」と一念発起 。
「人間にとって本当に大切なのは最終学歴ではなく、最初の教育だと思うんです。息子には、たとえどんな道を歩いても自分の手で幸せをつかめるように、自分の気持ちを表現できる、他人のことも理解できる、心の豊かな人間に育ってほしいという一心から、幼稚園をつくろうと思ったんです」 一度も働いた経験のない主婦が幼稚園をつくる。そんな無謀な決意に、もちろん夫も父親も取り合うはずがなかった。資金もなければ、人脈もない状況から幼稚園設立を目指して、ひとりで銀行をまわり、先生を探し歩いた。鳥居さんの夢と熱意に共感し、一人、二人と損得勘定なしに協力してくれる人たちが集まってきた。ようやく広尾のアパート2室を借りて、理想の幼稚園「ユニダインターナショナルスクール」がスタートしたのは半年後のことだった。
「開園当初、園児は星だけ。それでもいいと思ったんです。1000万円の資金も、星に理想の教育を受けさせられるのであれば高くない。星のためにつくった幼稚園なんだからって」 ユニダの教育理念は次第に広まり、広尾のアパートはまもなく園児たちの笑い声でいっぱいになった。 |